野球でよく聞く「変化球」は、投手が投げてバッターに空振りさせたり、凡打で打たせて取る球です。
変化球には様々な種類があり、スライダーやフォーク、カーブ、今話題のスイーパーなどがあります。
そしてどの変化球も、事前に球速や軌道が予測しづらいため、バッターにとっては打ちにくい球となっています。
では、なぜ変化球は曲がるのでしょうか?
実は、変化球が曲がるのは、科学的な現象に基づいたものなのです。
雑に言えば、ボールに回転をかけているから、です。
ボールに回転をかけて、周囲の空気の流れを利用しているから、です。
この記事では、変化球の曲がるメカニズムを簡単にまとめて解説していますので、興味ある人は読んでみてください。
では詳しく見て行きましょう。
ボールが曲がるメカニズム
さてではなぜ曲がるのか。
繰り返しになりますが、ボールに回転をかけて投げているからです。
変化球は、空気抵抗と重力をうまく利用しています。
モノを投げれば、重力の影響で放物線を描いて地面に落ちます。
投手は、ボールが地面に落ちる前に捕手に届くように、勢いをつけて球を投げています。
回転をかけて曲げる
ボールを投げたとき、ボールに回転をかけると進行方向とは直角な方向に力が働きます。
回転によりボールの両側面で空気の流れの速い側と遅い側ができます。
このとき、ボールは空気の流れが速い側に引き寄せられます。
これをマグヌス効果と呼び、変化球が曲がる根本的な現象です。
マグヌス効果 回転しながら進む物体に、その進行方向に対して垂直の力が働く現象
球速が速かったり回転数が多い場合には曲がる効果も大きくなるので、変化量の大きい球にはそれだけ強烈に回転がかかっている、と言うことになります。
この回転を、縦方向にかければ上下に、横方向にかければ左右に、ボールは変化しようとします。
ドライブ回転をかけてボールが急降下する、バックスピンをかけて浮き上がる、は縦回転です。
横回転をかければ右や左に曲がるのは、同じく空気の流れの速度差がボールの左右で生じることによります。
これに加えて、ボールには重力がかかって落ちようとしているので、それもうまく利用します。
回転と重力の利用、簡単に言ってしまうと、この2つが変化球のキモです。
なので、空気のない宇宙空間では変化球は曲がりませんし、空気の薄い標高の高い地域では変化球は曲がりにくいのです。
この辺のことを詳しく書いた本もありますので、見てみると参考になります。
縫い目を利用する
同じ条件下でも、ボールの回転の効果を上げる方法があります。
それは、縫い目を利用することです。
シーム=縫い目のこと
野球のボールは縫い目があって、回転によって大きく空気抵抗を受けます。
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ツーシームやフォーシームと呼ばれる球は、回転方向でから見てボールが1回転する間に縫い目(シーム)が何回通過するかを表しています。
ボールの握り方および投げ方によって、縫い目の通過回数を調整しています。
ボール1回転で最大が4回通過(フォーシーム)、最小が2回通過(ツーシーム)です。
従って、回転を効率よく効かせたいときはフォーシームで、回転の効果を最小限に抑えたい場合は、ツーシームになるように投げます。
フォーシームの回転
(縫い目を4つ通過)
ツーシームの回転
(縫い目を2つ通過)
各種の変化球と曲がるメカニズム
以下、球種と共に例を挙げて見て行きます。
直球/ストレート
直球と呼んでいますが、実は浮き上がる回転(バックスピン)をかけたボールです。
ボールを手放す瞬間に、人差し指と中指の二本ではじくように回転をかけることで、強いバックスピンがかかって浮き上がるボールになります。
浮き上がりの効果で重力による降下を打ち消すため、見た目にはレーザービームのような直線的なボールになります。
投げたボールを真横から見た状態と考えてこの図を見ると、イメージしやすいと思います。
以前、某球団の投手は「火の玉ストレート」と呼ばれるストレートを投げることで有名でしたが、このバックスピンをかけていた代表的な投手です。
ボールは重力に逆らって浮き上がってましたよね。
バックスピンの揚力で重力に逆らったライナー性の玉は「球が伸びる」と表現します。
フォーシームで投げると、バックスピンがさらに効果的な伸びを見せます。
投手をやっている人には、投げ方のことを詳しく書いた書籍を紹介しますので参考にしてください。
フォークボール
バックスピンを極端に少なくして投げている球種で、重力による放物線を描いて打者の付近でストンと落ちるように投げています。
【ゼビオカード】人差し指と中指でボールをはさんだ映像をたまに見ますが、ボールの両脇をつかんで投げるので、バックスピンがかかりづらく、少ない回転でボールは投げ出されます。
このときのバックスピンの回転数はストレートの半分程度かそれ以下と言われています。
・ストレート :30~40回転/秒
・フォークボール:10~15回転/秒
回転を減らすように投げていますが、それでもある程度の球速が出て回転はかかっています。
ツーシームのフォークにすると、回転の効果が弱まって落差が大きいフォークになります。
ナックルボール
最近あまり耳にしませんが、「ナックルボール」という球種はほぼ無回転の球種です。
投げた後、低速でふらふらしながら最後にストン、と落ちる変化球です。
現実的にボールを無回転で投げることは難しいので、球速もかなり遅いものになります。
投げ方も特殊なもので、限られた人間にしか扱えない球種です。
無回転キック(サッカー)
少し脱線しますが、サッカーで無回転キックと言うのをよく聞きます。
投げるではなく、蹴る話です。蹴るなら高速の無回転でボールを飛ばせます。
元サッカー日本代表で、無回転の揺れるフリーキックが得意な選手がいました。
物体が高速で空気中を移動するとき、後方に気流の渦ができます。
それまで物体がいた場所に空気が場所の穴埋めをするように流れ込んできて渦を巻きます。
右へ左へと交互に渦ができて消滅を繰り返すので、空中で物体は揺れるのです。
この渦はカルマン渦と呼ばれています。
カルマン渦 流れのなかに障害物を置いたとき、または流体中で固体を動かしたときに、その後方に交互にできる渦の列のことをいう
バレーボールのサーブのときも、無回転で打ち出すとボールが揺れていますが、同様の現象が起こっています。
回転のない球は、落ちるとか揺れるとか、いずれにしても捉えづらい動きをするのです。
もし無回転の速球を投げることができたら、とんでもない魔球ができそうですね。
現実では難しくても、マンガでは様々な魔球と呼べる変化球をあみ出しています。
実際の野球とは別に、こういうのを読むのも楽しいですね。
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往年の名作、ダイヤのA/メジャー/おおきく振りかぶって/MIX/タッチ/ドカベン/野球狂の詩など多数
スライダー
横変化の代表としてよく言われるのがスライダーです。
ボールを手放す瞬間に、中指で「切るように」回転をかける球種で、打者の手前で急激に横にスライド変化する球種です。
先ほどの図を反転していますが、真上から見た状態として見てください。
回転によりボールの両側面で空気の流れの速い側と遅い側ができます。
このとき、ボールは空気の流れが速い側に引き寄せられます。
二刀流で有名な彼が投げるあの鋭いスライダーは、球速が早い上に回転がかなりかかっているのでしょうね。
その他の変化球
変化球には、カーブやシュートなど他にもまだまだたくさんの種類があり、並べて性質を話し出したらキリがありませんね。
一般的に変化球は、球速、回転数、回転軸 この3つで性質が決まると言われます。
そして投手は、試行錯誤と練習を何度も重ねて来て、狙ったところに狙った変化量で投げられるようになっています。
空振りをさせたいのか、バットから少しだけズラして凡打で打ち取るのか、目的によっても変化のさせ方は変わってきます。
そのあたりをうまく制御し体得しているのです。
まとめ
以上、変化球の話でした。
過去にこれらを経験的に発見した人がいて実践していたかも知れませんが、最適な発生条件や効果を理解できたのはかなり後になってからだったかも知れません。
様々な回転をかけて投げることでボールの軌道を変える、または回転を最小限に抑えてカルマン渦の効果によりボールをゆらゆらと不安定な軌道にするなど、科学技術の進歩がなければ理解できない現象でした。
最近は技術が進歩し、ボールの回転数や回転方向、投げるときの指先の動きなどをこと細かに動画で撮影し、これを後から確認・分析できるようになっています。
この技術の進歩があって、最近のプロ野球の投手の球速や変化球のレベルが向上していると言われています。
これからももっと多彩な変化球が出て来て、野球やその他の球技をもっと楽しめるようになったらいいなと思っています。
ー了ー
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